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    アジャイル開発と契約 — 準委任で進める場合の合意事項

    アジャイル開発と請負契約の相性、準委任契約で進める理由、目的とスコープ・体制・検収・変更・知的財産権・中途終了など事前に合意すべき事項と発注側の責務を、発注者の視点で整理します。

    契約・進め方6分で読めます

    この記事の結論

    • 請負契約は仕様確定が前提であり、変化を前提とするアジャイル開発とは噛み合いにくい
    • 準委任契約は業務の遂行に対価を払う形で、進めながら優先順位を決められる
    • 契約書だけでなく進め方の合意を作り、発注側は判断と優先順位付けを担う

    アジャイル開発を外部のパートナーと進めたいが、契約をどう組めばよいかわからない。請負契約で見積もりを出してもらったものの、要件が固まっていないので金額も納期も決められない。こうした相談は少なくありません。

    本記事では、アジャイル開発と契約形態の相性を整理し、準委任契約で進める場合に発注側と受注側が合意しておくべき事項をまとめます。

    アジャイル開発と請負契約の相性

    請負契約は、完成した成果物を納品し、それに対して対価を支払う契約です。何を作るかが最初に決まっていることが前提で、仕様が固まった開発には適しています。

    一方、アジャイル開発は「作りながら学び、優先順位を変えていく」進め方です。短い区切りで動くものを作り、実際に使った反応を見て次に何を作るかを決めます。つまり、最初の時点で最終的な成果物を確定させないことが、この進め方の本質です。

    この二つを組み合わせると、次のような無理が生じます。

    • 見積もりの根拠となる仕様がないため、金額や納期を確定できない
    • 途中で優先順位を変えると、そのたびに契約変更が必要になる
    • 「完成」の定義が曖昧で、検収の基準を巡って認識がずれる
    • 受注側は変更を避けたくなり、発注側は変更を求めたくなる

    請負契約が悪いわけではなく、要件が固まっている部分には適しています。問題は、変化を前提とする進め方に、変化しないことを前提とする契約を当てはめることにあります。

    準委任契約で進める理由

    準委任契約は、成果物の完成ではなく、専門家としての業務の遂行そのものに対して対価を支払う契約です。作業の内容や優先順位を進めながら決められるため、アジャイル開発の進め方と自然に噛み合います。

    両者の違いを整理すると、次のようになります。

    観点請負契約準委任契約
    対価の対象完成した成果物業務の遂行
    仕様の確定契約前に必要進めながら決められる
    変更への対応契約変更が必要になりやすい優先順位の入れ替えで対応
    受注側の責任完成させる責任専門家として適切に業務を行う責任
    向く場面要件が固まった開発探索しながら進める開発

    準委任契約には「完成の保証がない」という不安を持つ方もいます。この不安に応えるのが、次に述べる合意事項です。契約書の条文だけでなく、進め方の合意を丁寧に作ることで、準委任契約は発注側にとっても安心できる形になります。

    合意しておくべき事項

    準委任契約でアジャイル開発を進める際、契約書や付属の合意文書で明確にしておきたい項目を挙げます。

    目的とスコープの考え方

    最終仕様を書くのではなく、事業上の目的と、何を優先し何を後回しにするかの判断基準を共有します。「この区切りで何を検証したいのか」が言葉になっていれば、個々の機能の要否はその都度判断できます。

    体制と稼働

    誰がどの役割で関わるか、どの程度の稼働を確保するかを取り決めます。人の入れ替えがある場合の引き継ぎの考え方も含めておくと、途中の混乱を防げます。

    成果物と検収の考え方

    準委任契約でも、作業の結果は形として残ります。ソースコード、設計資料、動作する環境などを「成果物」として定義し、それをどのように確認するか(レビュー会での確認、動作確認など)を決めます。完成を約束するのではなく、作業の結果を確認する手続きとして位置づけます。

    報告・レビューの頻度

    定期的な進捗共有と、動くものを見るレビューの機会を決めます。発注側がここに参加しないと、準委任契約の利点である「進めながら決める」が機能しません。

    変更の扱い

    優先順位の入れ替えは自由に行える一方で、体制や稼働の変更は契約の変更として扱う、といった線引きをします。何が「進め方の範囲内」で何が「契約の変更」かを分けておくと、無用な交渉を減らせます。

    知的財産権

    作成したソースコードや資料の権利が誰に帰属するか、受注側が既に持っていた資産や汎用的な部品の扱いをどうするかを定めます。事業を続ける上で、後から権利関係が不明確になるのは大きな支障になります。

    機密保持

    事業計画や顧客情報など、開発の過程で受注側が触れる情報の扱いを定めます。開発環境に置くデータの範囲もここで合意しておきます。

    中途終了

    事業の方向転換や資金状況の変化で、開発を止めたり縮小したりする可能性はあります。予告の考え方、それまでの成果物の引き渡し、精算の考え方を決めておくと、終了時にも関係を保てます。

    発注側の責務

    準委任契約では、受注側が専門家として適切に業務を行う責任を負う一方、発注側にも果たすべき役割があります。

    • 判断を止めない:レビューで見た結果に対して、続けるか、変えるか、止めるかを決めるのは発注側です。判断が遅れると、その間の稼働が価値を生みません。
    • 優先順位を持つ:「全部大事」では進められません。今の区切りで最も検証したいことを絞る責任は発注側にあります。
    • 窓口を一本化する:複数の関係者から異なる要望が届くと、チームは判断できなくなります。決定権のある担当者を明確にします。
    • 情報を出す:事業の状況や顧客からの反応を共有することで、開発チームの判断の質が上がります。

    発注側がこれらを担えない場合、準委任契約は「指示待ちの稼働」になり、期待した成果につながりません。

    想定例で見る合意の作り方

    想定例:あるスタートアップが、新規サービスの立ち上げを外部チームに依頼する場面を考えます。最初は請負契約で全機能の見積もりを求めましたが、仕様が固まっていないため、見積もりには多くの前提条件が付き、少しの変更でも再見積もりが必要になりそうでした。

    そこで準委任契約に切り替え、次のような合意を作りました。目的は「中核機能を使った顧客の継続利用を確認すること」。体制は開発担当と設計担当の固定メンバー。定期のレビューで動くものを確認し、次に取り組む項目を発注側が決める。成果物はソースコードと環境一式で、権利は発注側に帰属。事業の判断で終了する場合は事前に予告し、その時点までの成果物を引き渡す。

    この合意により、機能の追加や削除のたびに契約を見直す必要がなくなり、発注側は検証したいことに集中して優先順位を決められるようになりました。

    完成の保証ではなく、進め方を合意する

    アジャイル開発と請負契約は前提が異なるため、無理に組み合わせると双方に負担がかかります。準委任契約で進めるなら、目的とスコープの考え方、体制と稼働、成果物と検収、報告とレビュー、変更の扱い、知的財産権、機密保持、中途終了について事前に合意し、発注側は判断と優先順位付けの責任を担う。この形が整えば、準委任契約は「完成を保証しない不安な契約」ではなく、変化に対応しながら成果を積み上げる契約になります。

    フィリット・コンサルティングでは、Webシステム開発開発チーム構築支援において、準委任契約での進め方を基本としています。契約の組み方から相談したい方は、お問い合わせからご連絡ください。

    本記事は一般的な情報であり、個別の事案は専門家・所管官庁にご確認ください。

    チェックリスト

    • 開発の目的と優先順位の判断基準を言葉にしている
    • 体制と稼働、人の入れ替え時の考え方を決めている
    • 成果物の定義と確認の手続きを決めている
    • 報告とレビューの頻度を決め、発注側が参加できる
    • 進め方の範囲内の変更と契約変更の線引きがある
    • 知的財産権の帰属と既存資産の扱いを定めている
    • 機密保持と開発環境に置くデータの範囲を決めている
    • 中途終了時の予告・引き渡し・精算の考え方がある
    • 決定権のある窓口担当者が一人に定まっている

    よくあるご質問

    準委任契約だと完成が保証されないのが不安です。

    準委任契約は完成ではなく専門家としての業務遂行に責任を負う契約です。成果物の定義と確認の手続き、レビューの頻度、変更の扱いを事前に合意することで、進捗と成果を継続的に確認できる形になります。

    請負契約と準委任契約を組み合わせることはできますか?

    要件が固まっている部分を請負契約、探索しながら進める部分を準委任契約にするなど、フェーズや範囲で分ける方法はあります。どの部分がどちらの前提に合うかを整理して決めることが大切です。

    発注側に技術者がいなくても準委任契約で進められますか?

    進められますが、判断と優先順位付けを担う担当者は必要です。技術的な判断の補助が必要な場合は、外部の技術顧問を置くなど、判断を止めない体制を作ることをおすすめします。

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    監修: フィリット・コンサルティング株式会社公開

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