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    PoCの範囲を最小にする切り方

    PoCの範囲は「最も判断が難しいケース」だけを切り出すのが要点です。簡単なケースで成功しても本番化の判断材料にならない理由と、業務の一工程だけを抜き出す具体的な切り方を整理します。

    PoC・検証6分で読めます

    この記事の結論

    • 簡単なケースで成功しても、本番化の判断材料にはなりません
    • 最も判断が難しいケースを先に試すと、範囲は自然に小さくなります
    • 業務全体ではなく、一工程だけを抜き出して検証します

    PoCの範囲を決めるとき、多くの現場で自然に起きるのは「とりあえず典型的な例から試す」という進め方です。一見、順当に見えます。けれど、この順番こそがPoCを長引かせ、判断を先送りにします。

    典型的な例、つまり簡単なケースでうまくいっても、それは本番化してよいという根拠にならないからです。

    簡単なケースの成功は、何も証明しない

    生成AIを使った処理は、整った入力に対しては高い確率でそれらしい結果を返します。書式の揃った文書、短い文章、前例の多いパターン。こうした入力での成功率は、たいてい期待を上回ります。

    問題は、本番の業務で時間を食っているのが、その部分ではないことです。人が手を止めて考えているのは、次のような場面です。

    • 書式が崩れている、項目が欠けている、複数の解釈ができる
    • 例外的な取り決めがあり、通常の手順が当てはまらない
    • 判断に前提知識が要り、担当者によって結論が分かれる

    AIに任せたいのは、本来ここです。ところが簡単なケースだけで検証すると、「うまくいった」という印象だけが残り、実際に手間がかかっている部分の見込みは何も分かっていません。本番化してから「肝心なところで使えなかった」と気づくことになります。

    だから、PoCの範囲は「最も判断が難しいケース」から切り出します。

    難しいケースを先に試すと、範囲は小さくなる

    一見、難しいケースを扱うと検証が大がかりになりそうですが、実際は逆です。難しいケースは数が少なく、条件も具体的なので、対象が絞れます。

    範囲を切るときは、次の順で考えます。

    1. 業務のどの工程か:受付から完了までの流れのうち、一工程だけを選びます。全体を通す必要はありません
    2. その工程のどのケースか:過去に人が判断を迷った事例、差し戻しが起きた事例、ベテランでないと処理できなかった事例を集めます
    3. 何件か:数十件で足ります。数百件を集める労力を、1件ごとの丁寧な評価に回すほうが有益です

    この3段階を通すと、検証対象は「受付工程のうち、過去に差し戻しが発生した30件」のような、極めて具体的な形になります。ここまで絞れば、実装は既製のAI APIに投げる短いプログラムで足り、数日で結果が出ます。

    「この難しさで足りるなら、簡単なほうは足りる」

    難しいケースを先に置く根拠は単純です。難しいほうで実務に足る結果が出るなら、簡単なほうは自動的に足ります。逆は成り立ちません。検証の順序として、含意の向きが正しいほうを先にやる、というだけの話です。

    そして、難しいケースで足りなかった場合も収穫があります。「難しいケースは人が担当し、簡単なケースだけAIに回す」という現実的な設計が、そこで初めて根拠を持って描けるからです。この線引きこそ、本番設計で最も重要な情報です。

    作らないことを先に決める

    範囲を最小にするもう一つの軸は、「検証のために作らないもの」を明文化することです。PoCで作りたくなるが、多くの場合は不要なものを挙げます。

    作りたくなるものPoCで不要な理由
    専用の画面結果を表計算ソフトに書き出せば評価できる
    既存システムとの連携データを手作業で書き出して渡せば足りる
    ログイン・権限管理検証は限られた担当者が手元で行う
    処理の自動実行手動で走らせて結果を見れば判断できる
    大量データへの対応数十件で判断できる。負荷は本番設計の論点

    これらを作らないと決めるだけで、PoCは数か月から数週間に縮みます。ここで削ったものは消えるわけではなく、PoCと本番の間にある壁で扱うとおり、本番化を決めたあとに設計する対象として残ります。

    注意したいのは、削ってはいけないものがあることです。検証対象の処理そのものの質は削れません。指示文の作り込みや、参照させる社内文書の準備は、結果を左右するので手を抜くと検証自体が無意味になります。削るのは周辺であって、中心ではありません。

    想定例:ある企業が、見積依頼のメールから必要な情報を抜き出して見積書の下書きを作れないか、と検討したとします。最初の案は「メール受信から見積書のPDF出力まで一通り」でした。これを切り直すと、対象は「メール本文から、品目・数量・納期・特記事項の4項目を抜き出す」という一工程だけになります。さらにケースを絞り、過去に担当者が電話で確認し直した依頼メール25件を対象にします。実装は、メール本文を貼り付けると4項目が表形式で出てくる、それだけのものです。結果は表計算ソフトに並べ、営業担当者2名がそれぞれ確認します。数日で終わり、「特記事項の抽出だけが難しく、他3項目は実用に足る」という具体的な結論が得られます。

    既製品で足りる範囲を先に確かめる

    範囲を絞るときに、もう一つ効く問いがあります。「そもそも、作らずに済まないか」です。

    • 既に使っている業務システムやSaaSに、同様の機能が搭載されていないか
    • 汎用のAIサービスの画面に、担当者が手で貼り付けて使う形で足りないか
    • 条件分岐のルールや、表計算ソフトの関数で処理できる部分はないか

    特に2つ目は見過ごされがちです。月に数十件の処理なら、専用の仕組みを作らず、担当者が汎用のAIサービスに貼り付けて使うほうが、開発費も運用の手間もかかりません。仕組みとして作る価値が出るのは、件数が多い、記録が必要、複数人で同じ基準で処理したい、といった条件が揃ったときです。

    弊社はAI活用開発として既製のAI APIを業務やプロダクトに組み込む開発を行いますが、PoCの相談の入口では「まず既製のサービスをそのまま使ってみて、それで足りないところを教えてください」とお伝えすることがよくあります。足りないところが具体的になってから作るほうが、範囲は小さく、結果は確かです。

    難しい一工程だけを、現実のデータで

    PoCの範囲は、業務の一工程に絞り、その中でも最も判断が難しいケースを、現実のデータ数十件で試す。画面も連携も権限管理も作らない。この形にすると、PoCは数週間で結論が出て、結果は本番設計にそのまま使えます。

    合格の判定基準はPoCの合格ラインを先に決めるで、必要なデータの用意はPoCに必要なデータの用意で扱います。どこを切り出すべきか整理したい場合は、お問い合わせからご相談ください。オンラインで業務の流れを伺い、一緒に切り口を探します。

    チェックリスト

    • 検証対象を業務の一工程に絞っている
    • 最も難しいケースを検証対象に含めている
    • 過去に人が判断を迷った事例を集めている
    • 画面や連携を作らずに済む形を検討した
    • 検証しないと決めたことを明文化している
    • 対象の件数を数十件規模に抑えている
    • 範囲を広げるのは合格後と決めている

    よくあるご質問

    難しいケースだけで試すと、結果が悪く出ませんか?

    悪く出ます。それが目的です。難しいケースで足りるなら簡単なケースは自動的に足りますが、逆は成り立ちません。悪い結果が早く出れば、本番化しない判断や対象を絞る判断を、投資が膨らむ前にできます。

    実際の業務データを使わず、サンプルで試してはいけませんか?

    整った見本データで試すと、本番で崩れる原因がまったく見えません。実際のデータには、表記の揺れ、書式の不統一、欠けた項目、例外的な記載が必ず含まれます。件数は少なくてよいので、現実のデータを使ってください。

    PoCで画面まで作るべきですか?

    多くの場合は不要です。結果を表計算ソフトに書き出して人が見る形で十分に判断できます。画面が必要になるのは、操作感そのものが検証の対象である場合に限られます。

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    監修: フィリット・コンサルティング株式会社公開

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