この記事の結論
- PoCだけを請ける相手と本番を作る相手が違うと、検証の成果が引き継がれません
- 自社でやるべきPoCと外部に頼むべきPoCは、検証したい対象で分かれます
- 見積もりの安さより、本番化の話を最初からできる相手かどうかで選びます
「まずPoCから」という話になったとき、次に決めるのは誰とやるかです。ここで多くの会社が、PoC単体の見積もり金額で相手を選びます。その結果、検証は終わったのに本番化が進まないという状態に陥ることがあります。
本記事では、自社で進めるか外に頼むかの判断軸と、外に頼む場合に何を見て選ぶかを整理します。
まず、何を検証したいのかを区別する
PoCと呼ばれているものは、実際には性質の異なる二種類が混ざっています。この区別が、誰とやるかの判断に直結します。
一つは、業務適合性の検証です。AIに任せたい業務が本当にAI向きなのか、出力の品質が業務で許容できる水準か、現場が使うかを確かめます。技術的には既製のツールで足りることが多く、確かめたいのは業務側の事実です。
もう一つは、技術的実現性の検証です。既存システムとの接続、処理量への対応、応答速度、費用といった、作らないと分からないことを確かめます。
前者を外部の開発会社に発注すると、費用のわりに得られるものが少なくなりがちです。業務を知っているのは自社の人間だからです。逆に後者を自社だけで進めようとすると、判断に必要な技術的な見立てが得られません。
実務では、前者を自社で先にやり、そこで有望だと分かったものだけ後者を外部と進めるのが効率的です。前者を予算をかけずに進める方法は、予算をかけずに始めるPoCで扱っています。
PoCだけを安く請ける相手の何が問題か
「PoCだけなら安く請けられます」といった提案は魅力的に見えます。しかし、PoCだけを切り出して請ける形には、構造的な問題があります。
第一に、本番化を考えずに作られます。PoCの契約範囲は「動くものを見せて報告する」ことなので、受注側の合理的な行動は、最短で動くものを作ることです。本番で必要になる権限管理、エラー時の処理、費用の上限設定、ログの記録といった要素は、範囲外なので入りません。結果として、PoCのコードは本番の土台になりません。
第二に、引き継げない知見が発生します。検証の過程で分かったことのうち、報告書に書かれるのは一部です。どの設定を試してだめだったか、どのデータ形式で崩れたか、どこに時間がかかったか。こうした情報は作った人の手元に残ります。別の会社が本番を作る場合、その会社は同じ試行錯誤を繰り返します。その費用は発注側が負担します。
第三に、本番の見積もりが出てきません。PoCを請けた会社が本番を作らないなら、本番にいくらかかるかを答える動機がありません。「本番化には別途お見積もりが必要です」で終わり、経営判断に必要な数字が揃わないまま報告が終わります。
本番を作る前提の相手と組むということ
では本番まで一貫して頼めばよいかというと、それにも注意点があります。本番の受注を期待している相手は、「やめたほうがいい」という結論を出しにくい立場にあります。
この利益相反を消すことはできませんが、緩和する方法はあります。選定の面談で、次の質問をしてみてください。
- 「これまでに、お客様に中止を勧めたことはありますか」
- 「このやり方が向かないのは、どういう場合ですか」
- 「AIを使わずに解く方法はありますか」
三つとも、答えにくい質問です。だからこそ、答えが返ってくるかどうかで相手の姿勢が分かります。「できます」「大丈夫です」しか返ってこない相手は、検証のパートナーとしては不向きです。逆に、向かない条件を具体的に挙げられる相手は、その領域を実際に触っています。
弊社も本番開発をお引き受けする立場なので、この利益相反の外にはいません。そのうえで申し上げると、PoCの段階で「今の業務量なら既製ツールの組み合わせで足ります」とお伝えすることは実際にあります。無理に作ったシステムは運用されずに止まり、結局その関係は続かないためです。
自社で進める場合に必要なもの
自社でPoCを進める判断をした場合、技術者以上に必要なのは、業務を止めて検証に時間を割ける人です。既製のAIツールを使う検証は、操作そのものは難しくありません。難しいのは、日々の業務の合間に検証の時間を確保し、結果を記録し続けることです。
「片手間でやる」と決めたPoCは、ほぼ確実に途中で止まります。週に何時間をこれに使うかを、その人の上長と合意しておいてください。
技術的な見立てだけが足りない場合は、開発一式を発注するのではなく、技術顧問のような形で相談相手を確保する選択肢もあります。判断のために必要なのが手を動かす人ではなく、見立てを言える人であることは少なくありません。詳しくは技術顧問・外部CTOという選択肢をご覧ください。
見積もりを比べる前に確認すること
複数社から見積もりを取る場合、金額の前に次の点を揃えて聞いてください。揃っていない見積もりは比較できません。
| 確認項目 | 見るべきこと |
|---|---|
| 検証の範囲 | 何を確かめて何を確かめないかが書かれているか |
| 成果物 | 報告書だけか、動くものとコードも含むか |
| 本番化の扱い | 本番の概算見積もりが報告に含まれるか |
| 使うAIサービス | 選定の理由を説明できるか、変更の余地があるか |
| データの扱い | 提供したデータをどこに置き、いつ消すか |
| 権利 | 書いたコードとプロンプトを自社が使えるか |
最後の二つは、契約書の話になります。特にプロンプトの扱いは見落とされやすく、後から揉める点です。詳細はPoC契約で決めておくことで扱います。
判断の軸は、検証の後に何が残るか
PoCの依頼先を選ぶときの軸は、検証が終わったあとに自社に何が残るかです。報告書だけが残る形は、金額が安くても割高になります。使える知見、次の判断に必要な数字、そして本番を作るときに再利用できるものが残る形を選んでください。
弊社はAI活用開発として、既存のAIサービスを組み込んだWebシステムの実装をお引き受けしています。PoCの段階から、本番化したときの構成と費用を前提にご相談に乗ります。オンラインで全国対応しており、ご相談・お見積りは無料です。お問い合わせからご連絡ください。
本記事は一般的な情報であり、個別の契約に関する事案は専門家にご確認ください。
チェックリスト
- 検証したいのが業務適合性か技術的実現性かを区別している
- PoCの成果物を誰が引き継ぐか決めている
- 依頼先に本番化まで担当する意思があるか確認している
- 使うAIサービスの選定理由を説明してもらえる
- PoCで書いたコードとプロンプトの扱いを合意している
- 「できます」以外の答えが返ってくる相手を選んでいる
よくあるご質問
PoCを無料でやってくれる会社があります。頼んでよいでしょうか?
無料PoCは本番開発の受注を前提とした営業活動です。それ自体は問題ありませんが、検証の設計が「本番化しやすい結論」に寄る可能性は意識してください。中止という結論を出せる関係かどうかが判断の軸になります。
PoCと本番を別の会社に頼むのは避けるべきですか?
避けたほうが無難です。PoCで得た知見のうち文書に残るのは一部で、多くは作った人の手元に残ります。分ける場合は、引き継ぎに必要な記録の範囲を契約で定めておく必要があります。
社内にエンジニアがいない場合、自社でPoCはできませんか?
検証内容によります。既製のAIツールを業務に当てはめて有効性を測るタイプのPoCは、エンジニアがいなくても進められます。既存システムとの接続や自動化が絡む場合は外部の手が必要になります。
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監修: フィリット・コンサルティング株式会社公開