この記事の結論
- 入力する素材の権利と、生成物の権利は別の論点として分けて考える
- 生成物に自社の権利が生じるかは、人がどれだけ関与したかで変わりうる
- 事業上は「権利があるか」より「他人の権利を侵していないか」が先に効く
生成AIで作った文章や画像を、そのまま自社のサービスで使ってよいのか。この質問には決まった答えがなく、しかも国や時期によって議論が動いています。ここでは個別の結論を出すのではなく、発注側が判断を組み立てるための論点の分け方を整理します。法的な結論を要する場面では、必ず専門家にご確認ください。
論点を三つに分ける
混乱の多くは、性質の違う問いを一緒に考えることから起きています。分けると次の三つです。
第一に、入力する素材の問題です。他人の著作物をAIに読み込ませること自体をどう考えるか。
第二に、生成物の権利の問題です。出てきた文章や画像に、自社の権利が生じるのか。他社が同じものを使っても文句を言えないのか。
第三に、生成物が他人の権利を侵していないかという問題です。出てきたものが既存の作品と似ていた場合にどうなるか。
事業を進めるうえで最初に効いてくるのは三番目です。権利を主張できるかどうかは、問題が起きなければ争点になりません。一方、他人の権利を侵していた場合は、こちらの意図に関わらず問題が持ち込まれます。
入力する素材の出どころ
入力については、サービスの利用規約と契約の両方を見る必要があります。
利用規約の面では、そのサービスが入力内容をどう扱うかを確認します。商用利用が認められているか、入力した素材を学習に使う設定になっていないかといった点です。この確認の詳細は別の記事で扱っています。
契約の面では、取引先から受け取った素材の扱いが問題になります。デザインデータ、写真、原稿などを制作物として受け取っている場合、その利用範囲は契約で決まっています。「自社のサイトで使う」ことは認められていても、「AIに読み込ませて別の素材を作る」ことまで含まれているとは限りません。迷ったら、素材を提供した側に確認するのが確実です。
想定例として、パンフレット制作を外注した会社が、そのデザインデータをAIに入力してWeb用のバナーを量産しようとした場面を考えます。制作費は支払い済みですが、契約が印刷物での利用に限られていれば、この使い方は範囲外です。AIを使ったかどうかとは別に、元の契約の問題として整理できます。
生成物に権利が生じるかという考え方
日本の著作権法は、人間の創作的な表現を保護の対象としています。この前提から、プロンプトを一行入れて出てきたものをそのまま使う場合と、人が構成を決め、複数回の指示で調整し、出力を取捨選択して仕上げた場合とでは、扱いが同じにならない可能性がある、という整理が一般的にされています。
実務への落とし込みとしては、次のように考えると分かりやすくなります。
独占的に使いたい素材(ロゴ、サービスの象徴となるビジュアル、看板になるキャッチコピー)については、生成物をそのまま採用しない。人の手による制作・選定・調整の工程を入れ、その記録を残す。
独占する必要のない素材(記事の挿絵、社内資料の図、ブログの下書き)については、この論点にあまり時間をかけない。他社が似たものを使っても事業上の実害がないためです。
この線引きをしておけば、すべての生成物について権利を検討する必要がなくなります。
他人の権利を侵さないための実務
生成物が既存の作品と似てしまうことは起こりえます。確認を工程に入れておくのが現実的な備えです。
文章については、特徴的なフレーズや固有の表現が出てきた場合に検索で確認します。生成AIは、学習した文章の言い回しをそのまま出すことがあります。
画像については、既存のキャラクターや商標に似た要素が入っていないかを見ます。特定の作家名やブランド名をプロンプトに入れて生成した場合は、特に注意が必要です。
コードについては、長く特徴的な処理がそのまま出てきたときに由来を調べます。公開されているコードには利用条件が付いていることがあり、条件によっては自社の製品に組み込めない場合があります。人のレビューを通す運用にしておけば、この確認は工程の一部として回せます。
外注と契約で決めておくこと
自社で生成AIを使う場合だけでなく、発注先が使う場合も想定しておきます。
契約で扱っておきたいのは、納品物に生成AIの出力が含まれるかどうかを明らかにすること、含まれる場合に第三者の権利を侵していないことをどう担保するか、独占的に使いたい素材について生成物のみで構成しない取り決めをするか、といった点です。
準委任契約のように成果物の完成を約束しない形態では、この整理がより重要になります。何を確認済みとするかを合意しておかないと、後から確認していなかった部分が見つかります。
なお、この分野は法改正や裁判例、各国の議論によって考え方が動いています。社内の方針を一度決めたら終わりにせず、大きな案件の前には最新の状況を確認する運用にしてください。
実務で先に決めるべきこと
権利の議論を完全に決着させてから使い始める必要はありません。事業を止めずに備えるなら、優先順位は次の通りです。
入力する素材の出どころを確認する。商用利用が認められたプランを使う。独占したい素材は生成物だけで作らない。生成物を公開する前に人が確認する工程を入れる。判断に迷う案件は専門家に相談する。
この五つが回っていれば、多くの場面は実務上の問題になりません。残った論点は、案件の規模と性質に応じて個別に検討すれば十分です。AI活用開発やUXデザインで、生成AIをどこまで制作工程に使うかを含めて相談したい方はお問い合わせください。
本記事は一般的な情報であり、個別の事案は専門家・所管官庁にご確認ください。
チェックリスト
- 生成AIに入力する素材の出どころを確認している
- 商用利用が認められたサービス・プランを使っている
- ロゴなど独占したい素材を生成物だけで作っていない
- 生成物をそのまま公開せず人が確認する工程がある
- 外注先の納品物にAI生成物が含まれるかを契約で扱っている
- 生成コードのライセンス上の懸念を確認する手順がある
- 判断に迷う案件は専門家に相談する運用になっている
よくあるご質問
AIで作ったロゴを自社の商標として使えますか
使えるかどうかの判断は個別性が高い領域です。一般論として、独占的に使いたい標識については、生成物をそのまま採用するのではなく、人の手による制作・調整を経ることと、既存の商標との類似を調査することが実務上の備えになります。商標登録を伴う場合は弁理士などの専門家にご相談ください。
生成AIが書いたコードをそのまま製品に入れて問題ありませんか
技術的な品質の確認に加えて、既存の公開コードと酷似した出力になっていないかの確認が必要です。長く特徴的な処理がそのまま出てきた場合は、由来を調べてから採用してください。人のレビューを経る運用にしておけば、この確認を工程に組み込めます。
他社に発注したデザインがAI生成物だった場合、どうなりますか
納品物にAI生成物が含まれるか、含まれる場合に権利や責任をどう扱うかを契約で決めておくのが実務的です。事後に問題になるのは、独占的に使うつもりだった素材が実はそうでなかった、という場面です。
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監修: フィリット・コンサルティング株式会社公開