この記事の結論
- 問いは「AIで差別化されるか」ではなく「AIがないと検証が成立しないか」です
- 多くの構想では、AI機能がなくてもシード期の仮説は確かめられます
- 載せると決めた場合も、既製のAIサービスをそのまま使う最小構成から始めます
シード期の相談で頻繁に出てくるのが、「AI機能を入れるべきか」という問いです。投資家との会話でも話題になりやすく、入れないと遅れているように見えるのではないか、という不安も聞きます。
この問いへの答えは、多くの場合「今は入れなくてよい」です。理由は、AIが役に立たないからではなく、シード期に確かめたいことがAIの有無で変わらないことが多いからです。本記事では、その判断の仕方と、入れると決めた場合の最小構成を整理します。
なお、開発工程そのものに生成AIを使う話(設計やコードの生成、レビューの補助)は別の論点で、生成AIを開発工程に組み込むで扱っています。本記事は、プロダクトの機能としてのAIに絞ります。
問いの立て方を変える
「AI機能を載せると差別化されるか」という問いは、答えが出にくい問いです。載せれば何かしらの違いは生まれますし、載せなくても事業は成立します。どちらの結論も正当化できてしまいます。
代わりに、次の問いを立ててください。
AI機能がない状態で、シードで確かめたい仮説を確かめられるか。
確かめられるなら、載せない判断が有力です。確かめられないなら、載せる理由があります。この問いなら、答えははっきりします。
たとえば、「この業務を外部に任せたい人がいる」ことを確かめたいなら、任せた結果が人の手によるものかAIによるものかは、この段階の検証結果を左右しません。一方、「AIが出す精度でなければ価値が成立しない」という構想であれば、精度の確認は避けて通れません。
載せない判断が有力なケース
次のいずれかに当てはまるなら、シード期に載せない選択が合理的です。
- AIが担う予定の処理を、当面は人が手でできる。件数が少ないうちは、人がやったほうが速く、品質も安定します。手でやった記録が、後でAIに任せるときの評価基準にもなります
- AIがなくても利用者の行動が観察できる。検証の対象が「使い続けるか」であれば、処理の手段は問われません
- 出力の誤りが業務に直結する。誤った結果がそのまま顧客に届くと、検証したい価値とは別の理由で評価が下がります
- 入力するデータに個人情報や秘密情報が含まれる。扱いの設計に時間がかかるため、検証段階の優先度としては下がります
特に一つ目は見落とされがちです。「将来的には自動化するので、最初から自動化しておこう」という判断は自然に見えますが、自動化すべき処理の中身は、手でやってみて初めて具体的になります。
載せる理由があるケース
逆に、次の場合は載せる意味があります。
- AIの出力そのものが提供価値である。文章の生成、要約、分類といった処理の結果を顧客に届けることが価値の中心なら、それがないと検証になりません
- 人手では成立しない量が前提。一件ずつ人がやると価格が成立しない構想なら、成立するかどうかを早く確かめる意味があります
- 精度が出るかが最大の不確実性である。この場合、作るべきは製品ではなく、精度を確かめる小さな試行です。結果として「必要な精度が出ない」と分かれば、それも大きな成果です
三つ目のケースは、プロダクトを作る前にできます。実際のデータに近いサンプルをいくつか用意して、既製のAIサービスに投げてみて、出てきた結果を人が評価する。この程度の確認で、方向性の可否はかなり判断できます。
載せるなら、まず既製品をそのまま使う
載せると決めた場合でも、最初から作り込まないことをおすすめします。現在は、OpenAI、Anthropic、Googleなどが提供するAPIをそのまま呼び出す形で、要約、分類、抽出、対話といった処理を実装できます。シード期に必要なのは、この範囲で足りるかを確かめることです。
最小構成の目安は次のとおりです。
- 既製のAIサービスのAPIを、プロダクトから直接呼ぶ
- 指示文(プロンプト)はコード中に持ち、変更しやすくしておく
- 出力は人が確認できる形で表示し、修正できるようにする
- 利用回数と費用を記録し、上限に達したら止める仕組みを入れる
- 失敗したときに処理全体が止まらないようにする
この構成であれば、比較的短い期間で作れます。逆に、独自の検索基盤や、出力の自動評価の仕組み、モデルの調整といった話に入ると、それ自体が一つの開発プロジェクトになります。シード期の検証としては重すぎることがほとんどです。
一般論として、自社データを参照させる仕組み(いわゆるRAG)や、出力品質を自動で測る評価基盤は、AI機能が事業の中心になり、利用量が増えてから検討する領域です。その段階に至る前に基盤の議論から入ると、確かめるべき仮説への到達が遅れます。
載せたあとに測るもの
AI機能を入れたら、入れっぱなしにせず、次を観察してください。
- 使われているか。搭載したAI機能の利用率は、想定より低いことがあります。使われていないなら、機能ではなく見せ方か、そもそもの必要性の問題です
- 結果が採用されているか。生成された内容を利用者がそのまま使ったのか、大きく直したのか。直しが多いなら、価値は限定的です
- 費用が予想の範囲か。利用量に比例するため、想定外の使われ方をすると費用が伸びます
- AI機能を外しても残る価値は何か。この問いに答えられないなら、事業の軸がAI機能そのものになっている可能性があります
三つ目について補足すると、費用の上限を設ける仕組みは、後から入れるより最初に入れるほうが簡単です。利用者ごとの回数制限や、月間の総量の上限を最初から設計に含めておいてください。
データの扱いには先に線を引く
AIサービスに何を送るかは、実装の問題ではなく事業の判断です。顧客の個人情報、未公開の事業情報、第三者から預かったデータをそのまま送ってよいかは、利用規約と自社の方針の両方で確認が必要です。
シード期であっても、次の三点は先に決めてください。
- 送ってよいデータと、送ってはいけないデータの区別
- 利用するサービスの規約と、入力内容の学習利用に関する設定
- 利用者に対して、AIを使っている旨をどう伝えるか
三つ目は、業種によっては説明が求められる場合があります。個人情報や業種固有の規制に関わる内容は、スタートアップのセキュリティと個人情報保護もあわせてご覧いただき、個別の事案は専門家にご確認ください。
判断を一文にする
最後に、判断を一文で書いてみてください。「AI機能がないと、○○が確かめられないので載せる」または「AI機能がなくても○○は確かめられるので、今は載せない」。この一文が書けないうちは、まだ判断の材料が足りていません。
AI機能を載せるかどうかの整理、既製のAIサービスで足りる範囲の見極めについては、AI活用開発のページとあわせてお問い合わせからご相談ください。効果が薄いと判断した場合は、その旨をお伝えします。
本記事は一般的な情報であり、個別の事案は専門家にご確認ください。
チェックリスト
- AI機能がない状態で仮説を確かめられないか検討した
- AIが担う処理を、人が手でやった場合の所要時間を出した
- 出力が間違っていたときに何が起きるかを書き出した
- 既製のAIサービスをそのまま使う構成で足りるか確かめた
- 利用量に応じた費用が事業計画のどこに乗るか把握している
- AI機能を外しても残る価値が何かを言える
- 入力するデータに個人情報や秘密情報が含まれないか確認した
よくあるご質問
競合がAI機能を出してきたら、こちらも入れるべきですか
機能の有無より、その機能が顧客の課題を実際に解いているかを見てください。AI機能を載せること自体は既製のサービスを使えば短期間で可能なため、それ自体は長く続く差にはなりにくい面があります。差になりやすいのは、その領域特有のデータの持ち方や業務の理解です。
AIの出力が不正確な場合、どう扱えばよいですか
誤りが起きる前提で、確認と修正の手順を設計します。人が最終確認する、確信度の低い場合は結果を出さない、元の情報へのリンクを併記するといった形です。誤りが業務上の損害につながる用途では、そもそも自動化の対象にしない判断も必要です。
AI機能の費用はどのくらい見ておけばよいですか
案件により大きく異なります。重要なのは、利用量に比例して費用が増える点です。想定する利用回数と、一回あたりの処理量から概算し、上限を設ける仕組みを最初から入れておくことをおすすめします。
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監修: フィリット・コンサルティング株式会社公開