この記事の結論
- 全社導入から入ると、効果も失敗も分散して何も学べません
- 最初に選ぶのは「入力が文章・出力が文章」で、間違っても取り返せる工程です
- 対象を一つに絞り、担当者を一人決めるところまでが最初の一歩です
「AIを活用したい」と考えたとき、多くの企業がまず全社的な導入方針から検討を始めます。どのツールを契約するか、誰に配るか、どのようなルールを作るか。しかし、この順番で始めた取り組みが半年後に立ち消えになる例は少なくありません。
本記事では、最初の一歩をどこに置くべきか、その対象をどう選ぶかを整理します。結論を先に言えば、全社ではなく一つの工程、それも「入力が文章で出力も文章」の工程から始めるのが、最も学びの多い進め方です。
全社導入から入ると何が起きるか
全社導入は、一見すると効率のよい進め方に見えます。一度の意思決定で範囲が広く、全員が同時に使い始められます。しかし実際には、次のことが起きやすくなります。
効果が分散して測れません。100人が少しずつ使った場合、全体として何がどれだけ改善したのかは誰にも分かりません。「便利だった」という感想は集まっても、続けるべきかどうかの判断材料にはなりません。
失敗の原因も分散します。うまくいかなかったとき、ツールが合わなかったのか、業務が向いていなかったのか、使い方の説明が足りなかったのかを切り分けられません。切り分けられないものは改善できません。
そして、責任者が不在になります。全社の取り組みは「全員の仕事」になり、全員の仕事は誰の仕事でもなくなります。導入の担当者はいても、成果に責任を持つ人がいない状態になりがちです。
一方、一つの工程に絞れば、これらはすべて反転します。効果は一つの工程の中で観察でき、うまくいかない理由も特定でき、担当者を一人決められます。全社に広げるのは、その一つで確かな手応えを得てからで十分です。
「入力が文章・出力が文章」で絞る
では、どの工程を選ぶか。最も実用的な基準は、その工程の入力と出力がどちらも文章になっているかどうかです。
現在広く使われている生成AIは、文章を受け取って文章を返す仕組みです。この形に素直に当てはまる工程は、追加の開発をほとんど必要とせず、既製のサービスをそのまま使って試せます。逆にこの形から離れるほど、間に変換の仕組みが必要になり、最初の一歩としては重くなります。
具体的には、次のような工程が当てはまります。
- 打ち合わせの記録から議事録と次の作業の一覧を作る
- 問い合わせメールの内容を分類し、返信の下書きを作る
- 長い資料や契約書の要点を、確認すべき観点ごとに抜き出す
- 社内向けの説明文を、相手ごとの言い方に書き換える
- 求人票や募集要項の下書きを、既存の職務内容から作る
これらに共通するのは、人が読んで書く作業そのものだという点です。判断はまだ人が行い、AIは下書きを作る役に徹します。この形なら、結果が期待外れでも損失は下書きを捨てる手間だけで済みます。
逆に、数値の集計、在庫の引き当て、金額の計算といった工程は、入力も出力も文章ではありません。こうした工程は従来の仕組みのほうが確実で速く、AIを使う理由がありません。詳しくはAIを使わない方がいい業務で整理しています。
取り返せる工程かどうか
もう一つ、外せない条件があります。間違いが出たときに取り返せる工程かどうかです。
生成AIの出力には誤りが混ざります。これは使い方の問題ではなく、性質です。したがって最初に選ぶ工程は、誤りが混ざっても最終的に人が気づける構造になっている必要があります。
判断の目安は次の通りです。
| 条件 | 最初の対象に向く | 向かない |
|---|---|---|
| 出力の確認者 | 工程の中に確認する人がいる | そのまま外部に出る |
| 誤りの影響 | 作り直せば済む | 取引先や利用者に届く |
| 判断の性質 | 下書きや候補出し | 最終的な決定そのもの |
| 記録の要否 | 社内での利用 | 監査や説明責任の対象 |
議事録の下書きは、参加者が読めば誤りに気づきます。問い合わせの返信案は、担当者が送信前に読みます。こうした「人が必ず通る」工程は、誤りを含む前提で運用できます。
想定例:ある企業が、最初の対象として請求内容の自動判定を選んだ場面を考えます。所要時間が長く、効果が大きそうに見えたためです。しかし、判定を誤れば請求金額が変わり、取引先との確認が発生します。結局、全件を人が再確認することになり、作業は増えました。この企業は対象を問い合わせの一次分類に切り替え、誤分類が起きても担当者が振り直せる形にしたことで、続けられる運用になりました。
始める前に決めておく三つのこと
対象が決まったら、試す前に三つだけ決めておきます。多すぎる準備は着手を遅らせるので、この三つで十分です。
担当者を一人決める。 その工程を毎日やっている人が適任です。詳しくはAI活用は誰が担当すべきかで述べますが、情報システム部門やエンジニアではなく、業務を一番よく知っている人に持たせるほうが早く進みます。
現状を記録する。 その工程に今どのくらい時間がかかっているか、どのくらいの頻度で手戻りが起きているかを、始める前にざっと書き留めます。厳密な計測は不要です。後から「前はこうだった」と言えれば足ります。
やめる条件を決める。 「数週間試して、担当者が続けたいと言わなければやめる」といった単純な条件で構いません。やめる条件がないと、効果が出ていなくても惰性で続き、次の対象に移る判断ができなくなります。
この三つを決めたら、既製のサービスをそのまま使って始めます。この段階では開発は必要ありません。自社向けの開発が必要になるのは、既製のサービスでは業務に合わないと分かってからです。その分かれ目はAIツール導入と自社開発の分かれ目で整理しています。
一つで手応えを得てから広げる
最初の一歩の目的は、効果を出すことよりも、自社にとって何が向いていて何が向いていないかを知ることです。一つの工程で「これは手放したくない」と担当者が言う状態になれば、その工程の特徴が判断基準になります。似た性質の工程を二つ目、三つ目と選んでいけば、社内に判断の型ができます。
逆に、一つ目で手応えが出なかった場合も収穫です。対象の選び方が間違っていたのか、業務の前提が整っていなかったのかを振り返れば、次の選択が正確になります。準備側の問題であれば、自社のAI活用の準備度を測るで挙げた観点を先に整えるほうが早道です。
弊社のAI活用開発では、まず「AIで解くべき課題か」を一緒に見極めるところから入ります。既製のサービスで足りる場合は、そのようにお伝えします。最初の対象の選び方から相談したい方は、お問い合わせからご連絡ください。オンラインで全国対応しており、ご相談・お見積りは無料です。
チェックリスト
- 対象の工程を一つだけ選んだか
- その工程の入力と出力がどちらも文章になっているか
- 結果を確認する人が工程内にいるか
- 間違いが出たときに取り返せる工程か
- 現状の所要時間と手戻りの発生状況を把握したか
- 成否を何で判断するか事前に決めたか
- 担当者を一人決めたか
よくあるご質問
まず全社で生成AIのアカウントを配る方法ではだめですか?
配ること自体は悪くありませんが、それだけでは活用は進みにくい傾向があります。アカウントがあっても、自分の業務のどこに使うかは各自が考えることになり、使う人と使わない人に分かれます。一つの工程を決めて全員が同じ使い方を試すほうが、比較でき、学びが社内に残ります。
対象の工程が複数思いついた場合はどうしますか?
所要時間の長さではなく、結果の良し悪しをその場で判断できるかで選んでください。判断できる工程なら、合わなかったときにすぐやめられます。判断に外部の確認が必要な工程は、最初の対象には向きません。
どのくらいの期間で効果を判断すべきですか?
案件により異なりますが、数週間あれば「続けたいかどうか」は現場の感覚として出ます。数値で測れる効果を待つより、担当者が「これは手放したくない」と言うかどうかを最初の判断材料にするほうが現実的です。
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監修: フィリット・コンサルティング株式会社公開