この記事の結論
- 90日を30日ずつ、選定・試作・運用判断の三区間に区切って進めます
- 各区間の終わりに一つだけ決めることを事前に定め、期限で区切ります
- 決めきれずに次へ進む形が、最もよくある失敗の型です
AI活用に着手すると決めた後、多くの企業がつまずくのは技術ではなく進め方です。検討は続いているが何も決まらない、試してはいるが判断の場がない、という状態が半年続くことがあります。
本記事では、最初の90日を30日ずつの三区間に区切り、各区間の終わりに何を決めるかを手順として整理します。日数は目安であり、重要なのは区間ごとに決めることを事前に定めておく点です。
手順1: 最初の30日 — 対象を一つに決め、既製サービスで試す
この区間の目的は、比較検討ではなく、対象業務を一つに決めることです。
やること。 候補となる業務を洗い出し、一つに絞ります。絞る基準は、入力と出力がどちらも文章であること、結果を確認する人が工程の中にいること、間違っても取り返せることの三つです。詳しくはAI活用、最初の一歩をどう決めるかで整理しています。
絞ったら、既製のAIサービスをそのまま使って試します。この段階で開発は行いません。担当者が手作業でサービスを操作し、実際の業務データに近い内容で結果を確認します。
同時に、担当者を一人決めます。対象業務を毎日やっている人が適任です。情報システム部門やエンジニアではありません。理由はAI活用は誰が担当すべきかで述べています。
この区間の終わりに決めること。 「この工程で続けるか、別の工程に変えるか、やめるか」の三択です。判断の材料は、担当者が「これは使える」と感じたかどうかで構いません。数値は不要です。
よくある失敗。 候補を三つ四つ並べたまま、どれも少しずつ試して比較しようとする形です。比較には時間がかかり、しかもどれも中途半端な試し方になるため、結局判断できません。一つに絞ってから試してください。
手順2: 次の30日 — 業務の流れに載せて試作する
この区間の目的は、既製サービスを手作業で使う状態から、業務の流れに組み込んだ状態に近づけることです。
やること。 最初の30日で見えた不足を、具体的に書き出します。「毎回コピーして貼り付けるのが手間」「結果が記録に残らない」「担当者ごとに指示の出し方が違う」といった粒度まで落とします。
書き出した不足のうち、運用の工夫で解決できるものと、作らないと解決しないものを分けます。指示文の共通化、手順の統一、既製サービス間の連携機能の利用。これらで解決するなら、開発は不要です。この判断についてはAIツール導入と自社開発の分かれ目で扱っています。
作る必要があると判断した場合、この区間では小さく試作します。MVPの考え方で、最も不足の大きい一点だけを形にします。全機能を作ろうとしない点が重要です。
同時に、効果を何で見るかを決めます。削減時間ではなく、これまでできなかったことができるようになったか、判断が速くなったかで見るほうが実務に合います。詳しくはAI導入の費用対効果の測り方をご覧ください。
この区間の終わりに決めること。 「運用に乗せるか、試作の範囲を変えるか、やめるか」です。試作を触った担当者の評価が判断の中心になります。
よくある失敗。 不足を書き出さないまま、「便利にしたい」という漠然とした要望で開発を始める形です。範囲が定まらず、作るものが膨らみ、30日では終わりません。不足を文章で書けない段階では、まだ作る段階ではありません。
手順3: 最後の30日 — 実際の業務で回し、続けるかを判断する
この区間の目的は、日常の業務の中で使い続けられるかを確かめることです。
やること。 試作したものを、実際の業務で毎日使います。試験的な利用ではなく、本来の業務としてです。この期間中に出てくる問題が、運用で本当に効く論点です。
観察する項目は次の通りです。
- 担当者が毎日使っているか。使わなかった日があるなら、その理由は何か
- 出力の確認にどれだけ時間がかかっているか。慣れて短くなっているか
- 想定していなかった使い方が出てきたか
- 費用は想定の範囲に収まっているか
- 他の人からの問い合わせにどれだけ時間を取られているか
最後の項目は見落とされがちですが、範囲を広げる判断に直結します。担当者の負担が既に大きいなら、広げる前に時間の確保が必要です。
あわせて、費用の内訳を確認します。開発費のような一度きりの支出と、利用量に応じた従量費や運用の工数を分けて把握します。二年目以降に残る費用が効果に見合うかが、継続の判断材料になります。分類はAI活用の初年度予算の組み方で整理しています。
この区間の終わりに決めること。 「本格運用に移すか、範囲を広げるか、やめるか」です。ここで判断する人は、担当者ではなく経営者または事業責任者です。予算と担当者の時間配分を決める権限が必要だからです。
よくある失敗。 判断の場を設けないまま、なんとなく使い続ける形です。使われているように見えても、担当者が惰性で続けている場合があります。日付を決めて判断の場を設けてください。
何も決まらない進め方の典型
90日が過ぎても何も決まらない場合、その進め方にはいくつか共通の型があります。着手前に確認しておくと避けられます。
情報収集が終わらない型。 事例を調べ、セミナーに参加し、複数社から話を聞く。情報は増えますが、自社の業務で試していないため判断材料が増えません。既製サービスを一度試すほうが、十本の事例記事より判断に効きます。
全社最適から入る型。 全社のルールを整備し、方針を策定してから着手しようとする形です。ルールを作る段階で何を禁止すべきかが分からず、議論が収束しません。一つ試してからのほうが、実効性のあるルールを作れます。
決裁が区間をまたぐ型。 各区間の終わりの判断に稟議が必要で、判断だけで数週間かかる形です。90日のうち相当な期間が待ち時間になります。少額の試行を担当者の裁量で行える範囲を、着手前に決めてください。この点は自社のAI活用の準備度を測るでも扱っています。
やめる条件がない型。 効果が出ていなくても、「もう少し様子を見る」が繰り返される形です。次の対象に移れず、社内の関心も薄れます。着手前にやめる条件を決めておけば、撤退は失敗ではなく予定通りの結果になります。
想定例:ある企業が、方針の策定から着手した場面を考えます。利用可能なサービスの選定基準、データの取り扱い規程、承認の手順を整える作業に数か月を要しました。規程が完成した頃には、検討開始時に前提としていたサービスの仕様が変わっており、一部を作り直すことになります。この企業は方針の策定を一旦止め、一つの部署で一つの工程を試す形に切り替えました。その過程で必要と分かった項目だけを規程に加える進め方に変えています。
90日の後に何が残るか
90日で成果が出るとは限りません。しかし、進め方を区切っていれば、何かしらは残ります。
続けると判断した場合は、運用の仕組みと、効果を見る項目が残ります。やめると判断した場合も、その業務が向かなかった理由と、次に選ぶべき業務の特徴が残ります。どちらも次の判断に使えます。
残らないのは、区切りを設けずに検討を続けた場合です。この場合、費やした時間に対して、判断材料は増えていません。
弊社のAI活用開発では、着手の段階から運用の判断までをご一緒することも、特定の区間だけを支援することもできます。既製のサービスで足りると判断した場合は、その旨をお伝えします。お問い合わせからご連絡ください。打ち合わせはオンラインで全国に対応しており、営業時間は平日12時から21時、ご相談・お見積りは無料です。
チェックリスト
- 90日の起点と終点を日付で決めたか
- 各区間の終わりに何を決めるか書いたか
- 対象業務を一つに絞ったか
- 既製サービスで試す期間を確保したか
- 撤退の条件を着手前に決めたか
- 90日後の判断を誰がするか決めたか
よくあるご質問
90日という期間に根拠はありますか?
絶対的な根拠はありません。区切りを設けること自体に意味があります。期限がなければ検討は伸び、伸びるほど前提が変わります。自社の事情に応じて60日でも120日でも構いませんが、着手前に日付で決めてください。
30日で選定が終わらない場合はどうしますか?
終わらない理由の多くは、対象業務を絞りきれていないことにあります。候補を一つに減らせば選定は進みます。それでも終わらない場合は、意思決定の仕組みに問題がある可能性があります。着手を延期し、試行の裁量範囲を決めるほうが先です。
試作まで進んだものの効果が出ませんでした。
90日で撤退の判断ができたのであれば、想定通りの進み方です。対象の選び方が合わなかったのか、業務の前提が整っていなかったのかを振り返り、次の対象を選んでください。効果が出ないまま続けるより損失は小さく済みます。
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