この記事の結論
- 見るべきはデータの所在・業務の文書化度合い・意思決定の速さの三点です
- 三点のうち意思決定の速さが最も効き、ここが遅いと他が揃っても進みません
- 準備不足の項目があっても、範囲を狭めれば着手できる場合があります
AI活用を検討する際、「自社はまだ早いのではないか」という懸念はよく聞かれます。一方で、準備が整うのを待っているうちに何も始まらない、という状態も同じくらいよく見られます。
判断の材料になるのは三つの観点です。データの所在、業務の文書化度合い、そして意思決定の速さ。本記事では、それぞれをどう確認し、足りない場合に何を先に整えるべきかを整理します。
一点目:データの所在
AIに何かをさせるには、何かを渡す必要があります。渡すものがどこにあるか答えられるかどうかが、最初の確認です。
確認する問いは次の通りです。
- 対象の業務で使う情報は、どこに保存されているか
- それは人が開いて読める形か、システムの中に入っているか
- 必要なときに取り出せるか。取り出すのに誰の許可が要るか
- 紙のまま残っているものはどれくらいあるか
ここで多くの企業が該当するのは、「複数の場所に分かれている」という状態です。一部は共有フォルダ、一部は基幹システム、一部は担当者のメールの中。この状態自体は珍しくなく、直ちに問題にはなりません。
問題になるのは、「どこにあるか誰も答えられない」場合です。この状態で開発に進むと、要件定義の段階で止まります。まずは対象を一つの工程に絞り、その工程で使う情報だけを特定してください。全社のデータを整備する必要はありません。
なお、紙のまま残っている情報が中心の業務は、AI活用の前に電子化の検討が先です。読み取りの工程を挟むと、精度と費用の両方で不確実性が増えます。既存システムからのデータの移行についてはデータ移行の考え方も関わってきます。
二点目:業務の文書化度合い
AIに指示を出すには、業務の手順を言葉にする必要があります。つまり、AI活用の準備とは、業務を説明できる状態にすることとほぼ同義です。
確認する問いは次の通りです。
- その業務の手順は、文書として残っているか
- 残っていない場合、担当者は口頭で説明できるか
- 例外的な処理はどれくらいあるか。それを列挙できるか
- 担当者によって処理の仕方が違う箇所はあるか
三つ目と四つ目が重要です。文書がなくても、担当者が説明できるなら着手できます。しかし、例外が多く、しかも担当者ごとに判断が違う業務は、AI活用の前に業務の整理が必要です。整理せずにAIに任せると、誰の判断基準に合わせればよいか決まらず、出力の良し悪しも判断できません。
逆に言えば、この確認の過程で業務の整理が進むこと自体に価値があります。AI活用の検討が、業務の棚卸しのきっかけになる例は多くあります。
想定例:ある企業が、見積書の作成をAIで支援しようとした場面を考えます。手順を書き出す過程で、担当者ごとに値引きの判断が異なることが分かりました。この企業はAIの検討を一度止め、値引きの基準を明文化する作業を先に行いました。結果として、基準の明文化だけで見積書作成の時間は短くなり、AIの導入はその後に小さい範囲で始めています。
三点目:意思決定の速さ
三つの中で最も効くのがこの観点です。データと文書が揃っていても、判断が遅い組織ではAI活用は進みません。
理由は、AI活用が試行錯誤の積み重ねだからです。試す、結果を見る、やり方を変える、また試す。この繰り返しの速度が、成果が出るまでの期間を決めます。一回の判断に稟議を要し、数週間かかる組織では、数回の試行に半年を費やします。その間にAIサービス自体が変わり、前提が変わります。
確認する問いは次の通りです。
- 数万円規模のツールを試すのに、何人の承認が必要か。何日かかるか
- 「やってみて、だめならやめる」という進め方が許される文化があるか
- 効果が出なかったときに、担当者が責められる組織になっていないか
- やめる判断を、担当者の判断でできるか
四つ目が特に重要です。やめる判断ができない組織では、効果のない取り組みが続き、次の試行に進めません。AI活用で成果を出す組織の特徴は、当たりを引く確率が高いことではなく、外れを早く手放せることです。
この観点で問題がある場合、対象を狭めても解決しません。先に、少額の試行を担当者の裁量で行える仕組みを作ってください。金額の上限を決め、その範囲内なら報告のみで試せる形にするだけで、進み方は大きく変わります。
三点の組み合わせで判断する
三つの観点を整理すると、次のようになります。
| 観点 | 準備できている状態 | 足りない場合に先にやること |
|---|---|---|
| データの所在 | 対象業務で使う情報の場所を答えられる | 対象を一工程に絞り、その範囲だけ特定する |
| 業務の文書化 | 手順と例外を担当者が説明できる | 判断基準のばらつきを先に整理する |
| 意思決定の速さ | 少額の試行を担当者の裁量で行える | 試行の裁量範囲を金額で決める |
三つすべてが揃っている必要はありません。ただし、意思決定の速さだけは、他の二つでは補えません。ここが遅い組織は、データが整い業務が文書化されていても、AI活用が進まない例が多くあります。
逆に、データが散在していて文書化も進んでいなくても、意思決定が速い組織は進みます。試しながら足りないものを特定し、その都度整えていけるためです。
準備が足りなくても、狭めれば始められる
準備度が低いと判断した場合でも、着手を諦める必要はありません。制約に応じて対象を狭めれば、多くの場合は何かしら試せます。
データが散在している場合は、データを必要としない工程を選んでください。文章を読んで文章を書く工程なら、目の前の資料だけで完結します。最初の対象の選び方はAI活用、最初の一歩をどう決めるかで整理しています。
文書化が進んでいない場合は、担当者一人が自分の業務で試す範囲から始めてください。自分の業務なら、手順は頭の中にあります。その担当者が指示文を書く過程で、結果的に業務が言語化されます。
ただし、対象を狭めても向かない業務はあります。AIを使わない方がいい業務で挙げた類型に該当しないかは、先に確認してください。
準備度は測って終わりではない
準備度の確認は、始めるかどうかを決めるためだけのものではありません。半年後に同じ三点を確認すると、変化が分かります。データの所在が明確になった、例外が列挙できるようになった、試す判断が速くなった。こうした変化は、AI活用そのものの成果と同じくらい、事業にとって意味があります。
体制を決める段階に進む場合はAI活用は誰が担当すべきかを、着手後の進め方はAI活用の最初の90日にやることをご覧ください。
弊社のAI活用開発では、着手前の状況の整理からご相談を受けています。現時点では着手を急がないほうがよいと判断した場合は、その旨をお伝えします。お問い合わせからご連絡ください。打ち合わせはオンラインで全国に対応し、ご相談・お見積りは無料です。返信は通常1営業日以内にいたします。
チェックリスト
- 対象業務のデータがどこにあるか答えられるか
- そのデータを取り出せる状態か確認したか
- 業務の手順が口頭伝承になっていないか確認したか
- 例外的な処理が書き出せるか確認したか
- 試す許可を誰が出すか決まっているか
- やめる判断を誰がするか決まっているか
よくあるご質問
三点すべてが揃っていないと始められませんか?
揃っていなくても始められます。ただし、足りない項目に応じて対象を狭めてください。データが散在していれば、データを必要としない工程から。文書化が進んでいなければ、担当者一人が自分の業務で試す範囲から。意思決定が遅い場合だけは、対象を狭めても解決しないため、先に手当てが必要です。
データを整理してからAIに着手すべきですか?
整理そのものを目的にすると、いつまでも着手できません。対象を一つの工程に絞れば、必要なデータも限られます。その範囲だけ整理し、効果が確認できてから範囲を広げるほうが現実的です。全社のデータ整備を先に完了させる必要はありません。
準備度が低いと分かった場合、何から手をつけますか?
意思決定の速さが低い場合はそこから。他の二つが低い場合は、その制約を受けない範囲で一つ試してみることをおすすめします。試す過程で、何が足りないかが具体的に分かります。机上で準備度を高めようとするより速く進みます。
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