この記事の結論
- 技術デューデリジェンスで見られるのは完成度ではなく、現状を正直に把握し説明できているかです
- 指標、技術的負債、セキュリティ、権利、体制の五つを、資料として言語化しておくことが準備の中心です
- 隠すより、課題と対応計画をセットで示すほうが、投資家の信頼につながります
資金調達の過程では、事業計画や財務だけでなく、プロダクトと技術面の実態も投資家の確認対象になります。技術デューデリジェンス(技術面の精査)と呼ばれるこの過程では、プロダクトの完成度そのものより、「現状を正確に把握し、課題と対応方針を説明できるか」が見られます。準備がないまま臨むと、説明に時間を取られ、本来伝えるべき事業の魅力が霞んでしまいます。
本記事では、資金調達前に整えておきたいプロダクトと技術面の準備を、六つのステップとして整理します。技術者でない経営者が、開発チームや外注先と協力しながら進められる形にしています。
ステップ1:プロダクトの現状を説明する資料を作る
最初に用意するのは、プロダクトの全体像を技術者以外にも伝えられる資料です。次の要素を含めると、投資家側の技術担当者との会話が円滑になります。
- プロダクトが解決する課題と、主要な機能の一覧
- システムの構成図(画面、サーバー、データベース、外部サービスとの連携)
- 利用している主な技術と、それを選んだ理由
- リリースからこれまでの主な変更の履歴
- 現在の課題と、今後の開発計画
構成図は、詳細さより「何がどこにあり、どこと繋がっているか」が読み取れることを優先します。外部サービスとの連携については、APIを通じて何を受け渡しているか、その連携が止まったときの影響範囲まで書けると、依存関係の理解が深まります。
ステップ2:指標を定義とともに整理する
投資家は、利用者数や売上といった結果だけでなく、その裏にある行動の指標を見ます。ここで重要なのは、指標の値そのものより、定義と計算方法が明確で、継続的に計測できているかです。
- 北極星指標:利用者がプロダクトの価値を受け取ったことを表す、一つの中心指標
- 獲得から定着までの指標:登録、初回の価値到達、継続、離脱
- 収益に関わる指標:有料転換、更新、顧客あたりの収益
「継続」と言っても、何をもって継続と数えるかは事業によって異なります。定義を文書化し、誰が計算しても同じ値になる状態にしておくと、説明の信頼性が上がります。PMFの見極めについてはPMF(プロダクトマーケットフィット)をどう見極めるかを、指標の可視化についてはKPIダッシュボードをあわせてご覧ください。
ステップ3:技術的負債を可視化する
技術的負債とは、速度を優先して後回しにした設計や実装の改善課題のことです。負債があること自体は、成長するプロダクトでは自然なことであり、問題視されるのは「把握していない」「対応計画がない」状態です。
可視化の手順は次の通りです。
- 開発チームや外注先と一緒に、既知の課題を一覧にする
- それぞれについて、事業への影響(障害、開発速度の低下、拡張の妨げ)を整理する
- 対応の優先順位と、いつ・どのように対応するかの方針を書く
- 対応しないと決めた項目についても、その理由を残す
古い技術基盤や、設計の見直しが必要な部分がある場合は、モダナイズ・リプレイスの計画として示すこともできます。すべてを調達前に解消する必要はなく、計画があることが重要です。
想定例:ある企業が、初期に急いで作った決済まわりの処理に課題を抱えたまま資金調達の準備に入ったとします。開発チームと課題を一覧にしたところ、決済処理の重複実行を防ぐ仕組みが不十分であることがわかりました。この企業は、調達前に修正を終えることは難しいと判断し、影響範囲と暫定の運用対策、調達後の改修計画を資料にまとめて説明しました。課題を隠さず対応方針とともに示したことで、技術面の確認は大きな問題なく進みました。
ステップ4:セキュリティと個人情報の基本対応を確認する
利用者の情報を扱うプロダクトでは、セキュリティと個人情報の取り扱いが必ず確認されます。高度な対策より、基本が漏れなく整っているかが重要です。
| 領域 | 確認事項 |
|---|---|
| アクセス管理 | 本番環境や管理画面に誰がアクセスできるか、退職者の権限は削除されているか |
| 認証情報の管理 | パスワードやAPIキーがコードに直接書かれていないか、共有方法は安全か |
| 個人情報 | 何を保存しているか、保存期間、暗号化、削除依頼への対応手順 |
| バックアップ | 取得の有無、復元の手順を確認したことがあるか |
| 脆弱性対応 | 利用しているライブラリの更新方針、既知の脆弱性の確認方法 |
| 障害対応 | 障害時の連絡体制と、過去の障害の記録 |
これらを文書として整理し、実態と一致していることを開発チームと確認します。詳しくはスタートアップのセキュリティと個人情報保護で扱っています。
ステップ5:知的財産とソースコードの権利を整理する
プロダクトが自社の資産として認められるためには、ソースコードと関連する成果物の権利が自社に帰属している必要があります。特に外注で開発した場合や、創業前に個人で開発を始めた場合は、次の点を確認します。
- 開発会社との契約書で、成果物の著作権の帰属と利用範囲が明記されているか
- 創業者や社員、業務委託者が書いたコードについて、会社への権利の帰属が取り決められているか
- 利用している外部ライブラリやサービスのライセンス条件が、商用利用や改変を許しているか
- 商標、ドメイン、各種アカウントが会社名義で管理されているか
権利関係に曖昧さが残る場合は、調達前に契約や覚書で整理しておきます。これは技術というより法務の領域であり、専門家の確認を得ることをおすすめします。
ステップ6:開発体制と継続性を説明できるようにする
最後に、誰がプロダクトを作り、維持しているかを説明できるようにします。投資家が気にするのは、体制の規模より「特定の人が離れても継続できるか」です。
- 開発チームの構成(社内、外注、技術顧問)と役割分担
- 設計や運用の知識が、資料や仕組みとして残っているか
- テストとデプロイの自動化(CI/CD)など、属人性を下げる仕組みの有無
- 調達後の採用計画と、外部パートナーの活用方針
外注先に依存している場合は、引き継ぎに関する取り決めや、資料の整備状況を示せると安心材料になります。弊社の開発チーム構築支援では、こうした体制の説明資料の整備や、調達後を見据えた体制設計も支援しています。Webシステム開発の段階から、こうした資料を残しながら進める方法もあります。
完璧さより、現状を説明できる状態に
資金調達前の技術面の準備は、現状説明資料、指標の定義、技術的負債の可視化、セキュリティと個人情報の基本対応、権利の整理、体制の説明という六つのステップで進めます。共通するのは、完璧な状態を作ることではなく、現状を正直に把握し、課題と対応計画をセットで示すことです。これは調達のためだけでなく、事業を健全に運営するための土台にもなります。
技術面の棚卸しや資料の整備をどこから始めるべきか迷う場合は、お問い合わせからご相談ください。オンラインで状況を伺い、優先順位を一緒に整理します。
チェックリスト
- プロダクトの構成と主要な機能を一枚で説明できる資料があるか
- 北極星指標と主要な指標を、定義と計算方法つきで示せるか
- 技術的負債の一覧と、対応の優先順位を持っているか
- 個人情報の取り扱いとアクセス権限の管理を説明できるか
- ソースコードと成果物の権利が自社に帰属していることを契約書で確認したか
- 外部ライブラリやサービスのライセンス条件を把握しているか
- 開発体制と、特定の人への依存度を説明できるか
よくあるご質問
技術的負債があると資金調達に不利になりますか?
負債があること自体は珍しくなく、それだけで不利になるわけではありません。把握できていない、あるいは対応計画がない状態のほうが問題視されます。一覧と優先順位を示せれば、むしろ管理能力の証明になります。
外注で作ったプロダクトでも問題ありませんか?
問題にはなりませんが、ソースコードの権利が自社に帰属しているか、開発会社が離れても継続できる体制と資料があるかは確認されます。契約書と引き継ぎ資料を事前に整えておくことをおすすめします。
準備はいつから始めるべきですか?
案件により大きく異なりますが、調達の直前に慌てて整えるより、日常の開発の中で資料と指標を更新し続ける形が理想です。本記事の手順は、調達の予定がなくても事業の健全性を保つ上で役に立ちます。
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関連用語: 北極星指標、技術的負債、プロダクトマーケットフィット、CI/CD、API
監修: フィリット・コンサルティング株式会社公開