この記事の結論
- フェーズごとに検証すべきことが違うため、体制と契約形態もフェーズごとに変える
- プレシードは作らない判断、シードは速い改善、シリーズA以降は基盤と内製化が中心になる
- 外部パートナーは段階が進むほど実装から判断支援と引き継ぎへ役割を移す
スタートアップの開発体制は、資金調達のフェーズによって求められるものが変わります。プレシードで正しかった進め方が、シリーズAでは足かせになることも珍しくありません。本記事では、プレシード、シード、シリーズA、シリーズB以降の各フェーズについて、検証すべきこと、体制、契約形態、避けたい失敗を整理し、外部の開発パートナーとどう関わるかを解説します。
なお、FIXIT の解説記事では、スタートアップが開発を外部に委託する際に、事業フェーズに応じて委託の範囲と目的を変えるべきだと整理されています。また、LASSIC の記事では、CTO不在の会社が技術顧問や外部CTOを活用する際の考え方が紹介されています。本記事もこれらの整理を参考にしつつ、弊社の考え方をまとめています。
フェーズ別の全体像
| フェーズ | 検証すべきこと | 体制 | 契約形態 | 避けたい失敗 |
|---|---|---|---|---|
| プレシード | 課題が本当に存在するか。顧客が対価を払うか | 創業者中心。外部は相談と小さな試作 | スポット相談、小規模な準委任 | 検証前に作り込む |
| シード | 使い続けられるか。PMFの兆しがあるか | 小さな開発チーム。外部が実装の主力になることも | 月額の準委任 | 要件を固定した請負で身動きが取れなくなる |
| シリーズA | 成長に耐える基盤があるか。再現性のある獲得ができるか | 社内に技術責任者。外部は基盤と引き継ぎ | 範囲の明確な作業は請負、改善は準委任 | 負債を放置したまま増員する |
| シリーズB以降 | 組織として開発を続けられるか | 社内チームが主体。外部は顧問と専門領域 | 技術顧問としての準委任、専門領域の請負 | 外部依存が残り判断が社内にない |
以下、各フェーズを順に見ていきます。
プレシード — 作らない判断が価値を生む
この段階で検証すべきことは「課題が本当に存在し、顧客が対価を払うか」です。プロダクトの完成度ではなく、仮説の妥当性を確かめます。
体制は創業者が中心で、外部パートナーの役割は、作るべきかどうかの相談と、必要なら小さな試作にとどめます。契約は単発の相談か、稼働時間の小さい準委任契約が適しています。
避けたい失敗は、検証の前に作り込んでしまうことです。想定例:創業者が資金調達前に、想定するすべての機能を含むプロダクトを外部に発注したとします。完成したころには顧客との対話で課題の定義が変わっており、作った機能の多くが使われません。この段階では、ノーコードツール、既存サービスの組み合わせ、手作業での代替で検証できないかを先に考えます。資金調達前のプロダクトの考え方は資金調達前のプロダクトで詳しく解説しています。
シード — 速く改善できる体制と契約
検証すべきことは「使い続けられるか」です。初期ユーザーの反応を見て改善を繰り返し、PMFの兆しをつかむことが目的になります。
体制は小さな開発チームで、社内にエンジニアがいない場合は外部パートナーが実装の主力になることもあります。この段階では要件が毎週のように変わるため、月ごとの稼働時間を決めて優先順位を入れ替えながら進める準委任契約が向いています。
避けたい失敗は、要件を固定した請負契約で身動きが取れなくなることです。変更のたびに範囲と費用を合意し直す必要が生じ、改善の速度が落ちます。もう一つの失敗は、設計書やアカウント情報が外部パートナーの手元にしかない状態です。この段階から、ドキュメントと管理情報は自社の手元に置く運用にしておきます。
シリーズA — 基盤と技術責任者
検証すべきことは「成長に耐える基盤があるか」と「再現性のある顧客獲得ができるか」です。利用者の増加に伴い、性能、セキュリティ、運用の安定性が問われます。
体制としては、社内に技術責任者を置く時期です。CTOやリードエンジニアの採用を進め、外部パートナーの役割は基盤の強化と社内チームへの引き継ぎに移ります。契約は、範囲の明確な基盤強化や移行は請負、継続的な改善と伴走は準委任、という組み合わせが現実的です。
避けたい失敗は、技術的負債を放置したまま増員することです。人を増やしても、手を入れにくいコードの上では速度が上がりません。すべてを返す必要はありませんが、増員の妨げになる部分を優先して整理します。技術顧問や外部CTOを活用する場合の考え方は技術顧問・外部CTOという選択肢にまとめています。
シリーズB以降 — 社内が主体、外部は顧問と専門領域
検証すべきことは「組織として開発を続けられるか」です。個人の力量ではなく、採用、育成、プロセスによって開発が回る状態を目指します。
体制は社内チームが主体で、外部パートナーは技術顧問としての判断支援と、社内に知見のない専門領域(大規模な移行、特定の技術領域など)に限定していきます。契約は、技術顧問としての稼働時間の小さい準委任と、専門領域の請負が中心になります。
避けたい失敗は、外部依存が残ったまま判断が社内にない状態です。想定例:外部パートナーがシードから継続して実装を担い、シリーズB時点でも設計の判断がすべて外部に委ねられていたとします。事業の規模に対して技術判断の速度が追いつかず、採用したエンジニアも自分の判断で動けません。この状態を避けるには、シリーズAの段階から引き継ぎの計画を立て、外部の関与を意図的に縮小していくことが必要です。内製化の進め方は内製化ロードマップをご覧ください。
フェーズが変わるときに見直すこと
フェーズが変わるタイミングは、体制と契約を見直す機会です。次の点を確認します。
- 検証すべき問いが変わったか。変わったなら、作るべきものと優先順位も変わる
- 契約形態が要件の固まり具合に合っているか。動く時期は準委任、固まった作業は請負
- 設計書、運用ドキュメント、アカウント情報が自社の手元にあるか
- 社内に技術責任者を置く時期と、外部パートナーの役割をどう縮小するかが決まっているか
外部パートナーの側にも、段階に応じて役割を変える意思があるかを確認してください。実装を続けることが目的になっているパートナーと、自立を目標に置くパートナーでは、シリーズA以降の関わり方が大きく変わります。
フェーズが変われば、体制も契約も変える
プレシードは作らない判断、シードは速い改善、シリーズAは基盤と技術責任者、シリーズB以降は社内が主体で外部は顧問と専門領域。フェーズごとに検証すべきことが違うため、体制と契約形態もフェーズごとに変えるのが基本です。外部パートナーは段階が進むほど、実装から判断支援と引き継ぎへ役割を移していきます。
弊社は、今のフェーズで何を検証すべきか、どの契約形態が合うかを、開発を担当するエンジニアが直接ご相談に乗ります。オンラインで行う30分の無料相談をお問い合わせからお申し込みください。
チェックリスト
- 今のフェーズで検証すべき問いを一文で言えるか
- 検証に必要な最小限の機能と、後回しにする機能を分けているか
- 契約形態が要件の固まり具合に合っているか
- 設計書、運用ドキュメント、アカウント情報が自社の手元にあるか
- 次のフェーズに進むときに体制と契約を見直す予定を立てているか
- 社内に技術責任者を置く時期と、外部パートナーの役割の縮小計画を決めているか
よくあるご質問
プレシードで外部に開発を依頼するのは早すぎますか
検証したい仮説が明確なら早すぎることはありません。ただし、ノーコードや既存サービスで検証できる場合は、まだ開発しないという判断も含めて相談するのがよいです。
シリーズAの前に技術的負債を返すべきですか
すべてを返す必要はありません。調達後の増員で速度が落ちる原因になる部分を優先し、それ以外は計画的に残す判断が現実的です。
外部パートナーとの契約はいつ終えるべきですか
社内チームが技術判断と開発を自立して続けられる状態になったときです。終えるのではなく、技術顧問として関与を小さくする形も選択肢です。
関連する記事
- プロダクト資金調達前に整えておきたいプロダクトと技術面の準備投資家による技術デューデリジェンスを見据え、資金調達前に整えておきたい準備を手順化。プロダクトの現状説明資料、指標の整理、技術的負債の可視化、セキュリティと個人情報の基本対応、ソースコードの権利、開発体制の説明を解説します。
- チーム・体制技術顧問・外部CTOという選択肢 — 何を任せ、何を社内に残すか技術顧問・外部CTOに任せられる役割と、社内に残すべき意思決定やドメイン知識を整理し、契約形態、成果の測り方、内製化との関係、向くケース・向かないケースを解説します。
- チーム・体制開発の内製化ロードマップ — 外注から自社チームへ移行する手順外注に頼っていた開発を自社チームへ移す手順を、現状の棚卸し、最初に内製化する領域の選定、採用と技術顧問の活用、コードとドキュメントの引き継ぎ、並走期間、移行後の外部パートナーの使い方まで段階的に解説します。
関連するサービス
関連用語: MVP、プロダクトマーケットフィット、準委任契約、技術的負債
監修: フィリット・コンサルティング株式会社公開