見積りの差額は、多くの場合「値段の差」ではなく「範囲の差」です。同じものを頼めているかを先に確かめてから、金額を見ます。
使い方
この資料は、見積書が手元に2通以上あるときに使います。手順1と2は依頼を出す前に確認する項目なので、すでに見積りを受け取っている場合は「揃っていなかった点」を洗い出す用途で使ってください。手順3以降は、受け取った見積書を1通ずつ読みながら埋めます。最後に一覧にして並べると、金額の差がどこから来ているかが見えます。すべての項目に答えが出る必要はありません。答えられない項目こそ、相手に聞くべきことです。所要時間は、見積書1通あたり20分程度を見込んでください。
手順1. 同じ範囲定義を配ったか確認する
各社に口頭で説明しただけの場合、各社が想像した範囲はそれぞれ違います。比較の前提が崩れているので、金額の差には意味がありません。同じ文書を全社に渡していたかを確認し、渡していなければ、この段階で範囲を文書にして再提出を依頼するほうが、結果として早く済みます。文書といっても契約書のような形式は不要で、作りたいものと作らないものを箇条書きにした1〜2枚があれば十分です。次の項目が書かれているかを確かめてください。
- 検証したい仮説と、最初のリリースに入れる機能の一覧を文書で渡したか
- 対象とする利用者と端末(PC、スマートフォンなど)を明記したか
- 既存システムやデータの移行が必要かどうかを伝えたか
- 希望する時期と、動かせない締め切りがあるかを伝えたか
- 今回は作らないと決めている機能も、あわせて伝えたか
手順2. 見積りの形式を揃えて依頼したか確認する
総額一式の見積りと、作業項目ごとに工数と単価が書かれた見積りは、そもそも比べられません。依頼の段階で形式を指定しておくと、後の比較が楽になります。すでに一式の見積りを受け取っている場合は、内訳の提示を依頼してください。断られること自体が判断材料になりますし、内訳を出せない相手とは、開発が始まった後も工数の議論ができません。次の4点を依頼書に書いておくと、各社の見積りが同じ形で返ってきます。
- 作業項目ごとに、工数(人日・人月など)と単価を分けて記載してもらう
- クラウド利用料やライセンス料などの実費を、作業費と分けて記載してもらう
- 前提条件と、見積りに含まれない作業を明記してもらう
- 見積りの有効期限と、金額が変わり得る条件を書いてもらう
手順3. 総額を「作業費・実費・保守」に分解する
受け取った見積書を、3つに分けて書き出します。ここで初めて、比較できる形になります。実費は事業の成長に応じて増えるものなので、初期費用としてではなく、月々の運転費用として見てください。保守費が見積りに入っていない場合は、金額をゼロではなく「未定」として記録します。ゼロと書いてしまうと、その見積りが安く見えたまま比較に進んでしまいます。分解した結果、3区分のどこにも当てはまらない項目が出たら、それが何かを相手に確認します。
手順4. 抜けている作業がないかを照合する
安い見積りは、技術力や単価の差ではなく、必要な作業が入っていないことで安く見えている場合があります。下の項目を各社の見積書で探し、「記載あり」「記載なし」「別途見積り」のどれかを書き込んでください。記載がない項目は、後から追加費用として現れる可能性があります。ここで差が見つかった場合は、金額を比べる前に、範囲を揃えた再見積りを依頼するほうが確実です。
- 要件整理・画面設計・データ設計といった、実装前の工程
- テスト(動作確認、不具合の修正、複数端末での確認)
- インフラ構築、ドメインやSSL証明書の設定、リリース作業
- デザイン(画面のデザイン、ロゴや素材の用意)
- 外部サービスとの連携(決済、認証、通知、地図など)
- 打ち合わせ・進捗報告にかかる時間
- リリース後の一定期間の不具合対応
手順5. 契約形態と支払い条件を揃えて見る
請負契約と準委任契約では、同じ金額でも意味が違います。請負は完成したものに対して払い、準委任は業務の遂行に対して払います。仕様が固まっていない段階では、契約形態の違いが金額の差以上に影響することがあります。また、支払いのタイミングは資金繰りに直結しますので、総額だけでなく、いつ・いくら出ていくかまでを見てください。着手金の比率が高い見積りは、実質的な負担が前倒しになります。
- 契約形態は請負か準委任か。相手はなぜそれを提案しているか
- 着手金・中間金・完了時の支払い比率はどうなっているか
- 仕様が変わったときの手続きと、追加費用の決め方はどう書かれているか
- 開発を中断・縮小する場合、支払い済みの費用と未払い分はどう扱われるか
手順6. 安い理由・高い理由を相手に聞く
金額差の理由は、見積書からは読み取れません。各社に同じ質問をして、答え方を比べます。金額の根拠を説明できるか、範囲の違いを自覚しているかは、その後の進め方にも表れます。金額そのものは案件の内容や規模により異なりますので、世の中の相場と比べるよりも、目の前の見積り同士の差を相手が説明できるかを見るほうが確実です。ここで「他社の見積りを見ないと答えられない」と言われた場合は、範囲の定義がまだ共有できていない可能性があります。
- 他社より安い(高い)理由として、どの作業項目の差が大きいと考えますか
- この工数の見積りは、どのような前提で計算していますか
- 想定より時間がかかった場合、費用はどうなりますか
- この範囲から削るとしたら、どこを削ることを勧めますか
手順7. 一覧にして並べ、選ぶ基準を書く
最後に、各社を横に並べた一覧を作ります。金額だけでなく、範囲・契約形態・体制・保守までを同じ表に入れると、何を買おうとしているかがはっきりします。そのうえで、自社が今回いちばん重視する点を一文で書いてください。判断の理由を残しておくと、後から振り返るときにも、社内や株主に説明するときにも役に立ちます。重みの欄には、高・中・低のいずれかを書き込みます。すべてが「高」になる場合は、まだ優先順位が決まっていないということです。
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