この記事の結論
- 予算はライセンス費・API従量費・開発費・運用工数の四つに分けて組みます
- 初年度に最も読み違えやすいのは、開発費ではなく運用工数です
- 従量費は上限を設ける設計にしないと、予算の意味がなくなります
AI活用の予算を組むとき、多くの企業が開発費と月額のツール利用料だけを見積もります。しかし実際に初年度の終わりに振り返ると、予算を超過した原因は別のところにあることが多くあります。
本記事では、AI活用にかかる費用を四つに分類し、それぞれが何によって増減するのかを整理します。金額そのものは案件により大きく異なるため、ここでは比率と変動要因の考え方を扱います。
四つの費目に分ける
AI活用の費用は、性質の異なる四つに分けると管理できます。混ぜて見積もると、どこが膨らんだのかが分からなくなります。
ライセンス費。 既製のAIツールやサービスの利用料です。多くは利用者一人あたりの月額で、サブスクリプションの形を取ります。人数が決まれば金額も決まるため、四つの中で最も読みやすい費目です。
API従量費。 自社のシステムからAIサービスを呼び出す場合、処理した文章の量に応じてかかる費用です。単価は小さくても、利用が増えれば比例して増えます。最も読みにくく、最も予算を壊しやすい費目です。
開発費。 自社向けに作る場合の費用です。多くは一度きりの支出ですが、初年度に集中します。ただし後述の通り、初年度の最大の支出が開発費だとは限りません。
運用工数。 導入後に人がかける時間です。出力の確認、指示文の調整、担当者への説明、問い合わせ対応、月次の効果の確認。これらは請求書に載らないため見落とされますが、実際には人件費として発生しています。
変動要因を費目ごとに押さえる
予算を組む目的は、金額を当てることではなく、何が起きたら増えるのかを先に知っておくことです。
| 費目 | 主な変動要因 | 読みやすさ |
|---|---|---|
| ライセンス費 | 利用人数、契約プランの等級 | 読みやすい |
| API従量費 | 呼び出し回数、渡す文章の長さ、選ぶモデル | 読みにくい |
| 開発費 | 作る範囲、連携する既存システムの数 | 範囲が決まれば読める |
| 運用工数 | 出力を確認する件数、業務の変更頻度 | 見落とされやすい |
API従量費について補足します。同じ処理でも、渡す文章が長ければ費用は増えます。過去のやり取りをすべて渡す設計と、直近の数件だけを渡す設計とでは、費用に差が出ます。また、性能の高いモデルほど単価が高く設定されるのが通例です。すべての処理に最上位のモデルを使う必要はなく、分類のような単純な処理には軽いモデルを割り当てる設計で、費用は大きく変わります。
開発費については、AI部分よりも周辺の実装が作業量を占めることを前提にしてください。既存の社内システムから情報を取り出す、権限を分ける、履歴を残す、管理画面を作る。これらはAI特有の作業ではなく、通常のWebシステム開発です。連携する既存システムが増えるほど費用は伸びます。
初年度に最も読み違えるのは運用工数
初年度の予算で最も外れやすいのは、開発費でも従量費でもなく、運用工数です。
導入直後は、出力の確認に時間がかかります。担当者は「この結果を信用してよいか」を毎回判断するため、慣れるまでは従来の作業より時間が増えることさえあります。この立ち上がりの期間を見込まずに計画すると、「導入したのに忙しくなった」という評価になり、取り組み自体が止まります。
さらに、指示文の調整が継続的に発生します。業務の言い回しが変わる、対象の書類の様式が変わる、担当者が「こういう場合はこう答えてほしい」と気づく。そのたびに指示文を直す作業が発生し、これは開発会社ではなく社内の担当者が行うほうが速く回ります。
もう一つ、担当者への説明と問い合わせ対応があります。使い方が分からない、期待した結果が出ない、という問い合わせは導入初期に集中します。この対応を誰が担うかを決めていないと、推進担当者の時間が削られます。担当者の置き方はAI活用は誰が担当すべきかで扱っています。
想定例:ある企業が、初年度予算を開発費と従量費で組んだ場面を考えます。実際の支出は見積もりの範囲に収まりました。しかし振り返りの場で問題になったのは、推進担当者が本来の業務を圧迫されていたことでした。出力の確認と社内からの質問対応に想定以上の時間が取られており、費用としては計上されていないものの、事業への影響は大きいものでした。この企業は二年目の計画で、運用工数を人日として明記し、担当者の業務配分を正式に変更しています。
上限を設けないと予算の意味がなくなる
従量費は、設計で上限を設けない限り、いくらでも増え得ます。予算を立てただけでは止まりません。
設計に含めるべき仕組みは次のようなものです。
- 利用者一人あたり、あるいは一日あたりの呼び出し回数の上限
- 一回の処理で渡す文章の長さの上限
- 月次の利用量が想定を超えたときに通知する仕組み
- 想定を大きく超えたときに自動で停止する仕組み
- 処理内容に応じてモデルを使い分ける仕組み
これらは後から足すこともできますが、最初から設計に含めておくほうが確実です。見積もりを受け取ったときに、これらが含まれているかを確認してください。含まれていなければ、その項目を追加するよう依頼するか、なぜ不要と判断したのかを聞いてください。確認すべき項目はAI提案を受けたときの確認事項にまとめています。
なお、クラウドの費用全般についてはクラウドインフラコストの圧縮で扱った考え方がそのまま当てはまります。見るべきは単価ではなく、増える仕組みがどこにあるかです。
二年目以降に残るものを分けておく
初年度の予算を組むときに、あわせてやっておきたいのが、二年目以降に残る費用と消える費用の仕分けです。
消えるのは開発費です。一度作れば、同じものに再度かかることはありません。残るのはライセンス費、API従量費、運用工数、そして保守費です。保守費は見積もりに明示されないことがありますが、AIサービスの仕様変更への追随や、不具合の修正は継続的に発生します。
この仕分けをしておくと、二年目の予算要求が容易になります。また、「初年度は費用がかかったが、二年目からはこれだけで回る」という説明ができれば、社内での合意も得やすくなります。効果の測り方についてはAI導入の費用対効果の測り方をご覧ください。
予算より先に、やめられる形にしておく
初年度の予算で最も重要なのは、金額の精度よりも、うまくいかなかったときにやめられる形になっているかです。
既製ツールなら、契約期間と解約の条件を確認してください。年間契約で途中解約ができない場合、効果が出なくても一年間払い続けることになります。開発する場合は、範囲を絞って段階的に進め、途中で止めても損失が限定される形にします。
作るか買うかの判断そのものはAIツール導入と自社開発の分かれ目で整理しています。予算を組む前に、そもそも作る必要があるかを確認するほうが、結果として費用は小さくなります。
弊社のAI活用開発では、費用の上限を設ける設計と、利用量の監視の仕組みを実装の範囲に含めています。予算の組み方の段階からご相談いただけますので、お問い合わせからご連絡ください。打ち合わせはオンラインで全国に対応し、ご相談・お見積りは無料です。返信は通常1営業日以内にいたします。
なお、本記事は契約条件の確認に関わる論点を含みます。一般的な情報として参考にしていただき、個別の事案は専門家にご確認ください。
チェックリスト
- 四つの費目に分けて見積もったか
- 従量費の単価と想定利用量を確認したか
- 費用の上限を設ける仕組みを設計に含めたか
- 運用工数を人の時間として計上したか
- 二年目以降に残る費用と消える費用を分けたか
- 使われなかった場合にやめられる契約になっているか
よくあるご質問
AI活用の費用はおおよそいくらかかりますか?
案件により大きく異なります。既製のツールを契約するだけなら利用人数に応じたライセンス費のみですが、業務システムとして組み込む場合は開発費が加わります。金額より先に、この記事で挙げた四つの費目のどれが自社に発生するかを整理してください。それが決まれば、見積もりの妥当性も判断できます。
従量費はどのくらい変動しますか?
利用量に比例するため、想定の何倍にもなり得ます。変動要因は利用人数、一回あたりに渡す文章の長さ、呼び出す回数、そして選ぶモデルです。設計段階で上限を設ける仕組みを組み込むことが前提になります。
初年度の予算が取れない場合はどうすべきですか?
既製ツールを少人数で試す範囲に絞れば、開発費は発生しません。まずその範囲で効果を確かめ、翌年度の予算要求の材料にするほうが、小さな予算で無理に作るより結果が良くなります。
関連する記事
- AI活用AI導入の費用対効果の測り方削減時間×人件費単価という計算がAI導入の効果測定で現場に通らない理由と、「やらなかった仕事が生まれたか」「判断が速くなったか」で測る代替の考え方を、経営者・事業責任者向けに整理します。
- AI活用AIツール導入と自社開発の分かれ目既製のAIツールで足りるのか、自社向けの開発が必要なのか。業務の固有性、データの持ち出し可否、利用人数の三つの軸で判断する方法と、大半の業務が既製品で足りる理由を発注側の視点で整理します。
- 技術・インフラクラウドインフラコストの圧縮 — 見直しの順番と落とし穴クラウドの利用料が事業の成長より速く増えているとき、どこから手を付けるべきか。可視化から監視の継続運用までの手順と、可用性や開発速度を損なう落とし穴を経営者向けに整理します。
関連するサービス
監修: フィリット・コンサルティング株式会社公開